• 2026年5月28日

原因不明の吐き気・胸やけ・不快感は逆流性食道炎かもしれません。

日々の診察の中で、

ずっと吐き気が続いているが、検査をしても原因がよくわからない

市販の胃薬を飲んでも胸やけや胃のむかつきが治まらない

といったお悩みで来院される患者さんがいらっしゃいます。このような原因不明とされる不快な症状の背景には、多くの場合「逆流性食道炎」という病気が隠れています。

今回は、逆流性食道炎とはどのような病気なのか、なぜ吐き気や胸やけが起こるのか、そしてどのように治療していくべきなのかについて、専門医の視点から詳しく解説します。

逆流性食道炎とは、本来は胃の中に留まっているはずの強い酸性の胃液(胃酸)や、消化途中の食べ物が食道に逆流し、食道の粘膜に炎症を引き起こす病気です。

胃の粘膜は強い酸から自分を守る粘液を分泌していますが、食道にはその保護機能がありません。そのため、金属をも溶かすと言われる強い胃酸が逆流して食道に触れると、粘膜がただれ(びらん)、激しい痛みや違和感を生じさせます。

代表的な症状には、以下のものがあります。

胸やけ:みぞおちから胸の下にかけて熱くなるような、焼けるような不快感。

呑酸(どんさん):酸っぱい液体や苦いものが口まで上がってきて、ゲップが出る症状。

喉の違和感・痛み:逆流した胃液が喉を刺激し、ヒリヒリしたり、つかえる感じがしたりします。

吐き気がひどいが原因がわからない」という方の多くが、逆流性食道炎を患っています。消化管に炎症という異常が起こることで、体はそれを異変として察知し、吐き気やムカムカ感を引き起こすのです。

逆流性食道炎による吐き気には、いくつかの明確な特徴があります。

食後に強くなる:特に脂っこいもの、甘いもの、食べ過ぎの後にムカムカしやすくなります。

特定の姿勢で悪化する:前かがみの姿勢や、重いものを持ったとき、お腹を締め付けたときに胃酸が押し出され、吐き気が強まります。

横になると気持ち悪い:寝ている間や明け方に、重力の助けがなくなることで胃酸が逆流し、気持ち悪さで目が覚めることがあります。

だらだらと長く続く:強い腹痛や発熱はないものの、数週間から数ヶ月、なんとなく気持ち悪い状態が繰り返されます。

このように、食事・姿勢・時間帯との関係がはっきりしている吐き気は、逆流性食道炎の可能性が非常に高いと言えます。

現在、日本人の約20%が逆流性食道炎の症状を持っていると言われるほど、この病気は一般的になっています。その背景には、現代特有の原因がいくつかあります。

腹圧の上昇と姿勢の悪さ

肥満は逆流性食道炎の最大の要因の一つです。お腹周りの脂肪によって胃が圧迫されると、内容物が食道へ押し上げられてしまいます。また、長時間のデスクワークによる猫背や、ベルトでの強い締め付けも腹圧を高める原因となります。

食生活の欧米化と嗜好品

脂肪分の多い食事、アルコール、コーヒー、炭酸飲料、甘いものなどは、胃酸の分泌を増やしたり、胃と食道のつなぎ目にある筋肉(下部食道括約筋)を緩めたりするため、逆流を誘発します。

加齢と構造の変化

年齢とともに筋肉が衰えると、逆流を防ぐ仕組みが弱くなります。また、胃の一部が横隔膜の上に飛び出してしまう「食道裂孔ヘルニア」があると、胃酸を食い止めるストッパーが外れ、逆流が常態化してしまいます。

ピロリ菌除菌後の影響

皮肉なことに、胃がん予防のためにピロリ菌を除菌すると、それまで低下していた胃酸の分泌能力が正常に戻るため、一時的に逆流性食道炎の症状が出やすくなることがあります。

「いつものことだから」と放置するのは危険です。逆流性食道炎と似た症状を出す疾患の中には、胃がん、食道がん、胃・十二指腸潰瘍といった重大な病気が隠れている可能性があるからです。

また、食道の炎症を繰り返すと、食道の粘膜が胃の粘膜のような組織に変性してしまう「バレット食道」という状態になります。これは将来的に食道がんのリスクを高める要因となるため、早期の発見と適切なコントロールが極めて重要です。

原因を特定し、重大な病気を除外するためには、胃カメラ(内視鏡)検査が最も確実な手段です。

内視鏡検査では、実際に粘膜に傷があるか(逆流性食道炎)、傷はないが過敏になっている状態か(非びらん性胃食道逆流症:NERD)を正確に判断できます。最近では、麻酔(鎮静剤)を使用して眠っている間に終わる検査や、鼻から通す細いカメラなど、患者さんの負担を最小限に抑えた方法が主流となっています。

【逆流性食道炎に効果の高いお薬】

現在は、非常に効果の高い胃酸分泌抑制薬(PPIやP-CAB)が登場しています。多くの場合、服用を始めてから数日から2週間ほどで、長年悩んでいた吐き気や胸やけが劇的に改善します。

【再発を防ぐ生活習慣の工夫】

薬で症状を抑えるのと同時に、生活習慣を見直すことが再発予防の鍵です。

食べてすぐ横にならない:食後2〜3時間は上半身を起こしておきましょう。

左側を下にして寝る:胃の形状から、左側を下(左側臥位)にして寝ると胃酸が逆流しにくいことがわかっています。

腹八分目を守る:胃をパンパンに膨らませないよう、よく噛んでゆっくり食べることが大切です。

原因不明の吐き気」や「いつまでも治らない胸やけ」は、あなたの体が発しているSOSサインかもしれません。逆流性食道炎は、適切な治療と少しの生活習慣の改善で、多くの方が不快な症状から解放される病気です。

自己判断で市販薬を飲み続けたり、我慢したりせず、ぜひ一度、消化器内科の専門医にご相談ください。最新の苦しくない胃カメラ検査で原因をはっきりさせ、毎日を笑顔で過ごせる健康な胃腸を取り戻しましょう。

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